Glass 2 / 1巻
古き仲間
毎月22日に来る和服の老人に、何を出しても「まずい」と斬られ続ける話。答えは酒の出来ではなく、戦後まもない横浜で友と飲んだ一杯の温度のほうにあった。
この話に出てくるお酒
- ハイボール
- この話に2回出てくる。1杯目は佐々倉が来島泰三に出したもので、「暑くなってきたのでレモンを効かせた」とだけ説明される。反応は「まずい」。もう1回は「まずい酒とは何か」を探しに入った安い立ち飲みの店で、そこのマスターが乱暴に作った一杯。佐々倉は作り方は乱暴でもこの店の客にとっては旨い、と気づく。
- ダイキリ
- 老人に出した2杯目。評は「話にならん」。作り方の記述は作中にない。
- ベリーニ
- 続けて出した中の1杯。まとめて否定される。作り方の記述は作中にない。
- マンハッタン
- 同じく続けて出した1杯。ここまでオーソドックスな定番を順に並べて、どれも通らない。
- アレクサンダー
- 同じく続けて出した1杯(作中の表記は「アレキサンダー」)。甘い側まで振っても届かない、という並びの締め。
- マティーニ
- 翌日「オーソドックスにマティーニを」と言われて出した一杯。今のマティーニは連続式蒸留機で作ったロンドンジンを使うのが普通だが、あえて昔ながらの製法のオランダジン、それも15年熟成のノールドジュネヴァを使っている。香りは驚かれるが、それでも却下される。比率とステア回数の記載は作中にない。作中の銘柄:オランダジン=15年熟成のノールドジュネヴァと作中で明言。ボトルのラベルは "Réserve … 15 years old … march 1977" まで読めるが商品名は判読不能
- オールド・パル
- この話の主役。22日が亡きマスターの月命日だと気づいた佐々倉が、戦後まもない横浜のホテルバーでそのマスターが出していた一杯を再現する。ライウイスキー・ドライベルモット・カンパリを1/3ずつ。老人は「死んだマスターの味」と認める。味は「スパイシーで、どこか南洋の風を感じる」と描かれる。作中の銘柄:ドライベルモットは NOILLY PRAT、カンパリは CAMPARI とラベルが明確に描かれる。ライウイスキーのボトルも描かれるが銘柄名は判読不能
名前が出ただけのお酒
- ロンドンジン
- 連続式蒸留機で作る、今のマティーニで普通に使われるジン、という説明の中で名前が出るだけ。この話では使われていない。
「古き仲間」= OLD PAL
オールド・パルは「古き仲間」。作中でもそう説明されていて、そのまま話の題になっている。名前の意味が分かった時点で、この話が誰と誰の話だったかも分かる作りになっている。
老人が毎月22日に来ていたのは、その店の亡きマスターの月命日だったから。注文されていたのは酒ではなく、その相手と飲んだ時間のほうだった。だから技術で正解に近づけない。
冷たいほど旨い、とは限らない
この一杯のキモは温度。戦後まもない時期は氷も冷蔵庫も貴重で、酒もグラスも十分には冷やせなかった。当時のカクテルは今ほど冷たくない。佐々倉はそこまで戻して、今の感覚では「ぬるい」温度で出している。
現代のバーの標準では減点になる出し方で、それを狙ってやるところにこの話がある。冷やすのは香りを締めて口当たりを整えるためで、目的が「あのときの味」なら、標準のほうを外すことになる。
1/3ずつの組み方
ライウイスキー・ドライベルモット・カンパリを等分。ネグローニ(ジン・スイートベルモット・カンパリ)と同じ等分の形だが、ベースをライに、ベルモットをドライに替えてある。甘みを担当する材料が抜けるので、カンパリの苦味が支えなしで前に出る。
家で組むときは各20mlから。等分は分量を覚えなくていいぶん、材料の質がそのまま出る。ベルモットは開けたら冷蔵庫に入れて、数週間で使い切るつもりでいたほうがいい。ここが酸化していると、原因の分からない平坦な味になる。
オランダジンのマティーニ
途中で出てくるマティーニは、ジンの選び方だけで別の酒にできることの実演になっている。今主流のロンドンジンは連続式蒸留機で作るクリアなもので、そこへ昔ながらの製法のオランダジン、しかも15年熟成のノールドジュネヴァを持ってくると、香りの重心がまるごと下へ移る。
家で試すならジュネヴァ(イエネーフェル)を1本。ロンドンジンで作ったマティーニと飲み比べると、同じレシピでベースを替えるとどこが動くかが一度で分かる。なお作中には比率もステア回数も書かれていないので、そこは自分の標準で組むことになる。
当ページは作品の紹介と、作中に登場するお酒についての解説です。作品本文・画像の転載はしていません。 引用した台詞は解説に必要な範囲にとどめています。
『バーテンダー』/城アラキ・長友健篩/集英社・スーパージャンプ