漫画とお酒 / バーテンダー

Glass 1 / 1巻

優しい止まり木

バー取材の記者が、ぬるくなったジンフィズに59点を付ける。同じ店の同じ一杯を差し出されて評価がひっくり返るところから始まり、最後に出てくるのはカクテルですらない「水割り」。

この話に出てくるお酒

ジンフィズ
同じ店の同じジンフィズが2回出てくる。1杯目は取材メモを書きながら放置され、氷が溶けてぬるくなった状態で飲まれて59点。そのあと居合わせた佐々倉溜が自分のぶんのジンフィズを差し出すと、同じ一杯が旨い。酒ではなく置いておいた時間のほうが犯人だった、という見せ方。作中には「ショートカクテルは3口で、ロングでも10分以内に飲むもの」という言及がある。
マティーニ
ホテルの実技試験で、受験者1人目が「得意なカクテルを」に応えて出した一杯。オリーブ入り。飲料部長・神嶋の評は「強いカクテルだ」で、客の胃の状態を知らずに出すな、という意味で使われている。比率の記載は作中にない。
グラスホッパー
受験者2人目の一杯。注文を受けたあとに神嶋がプースカフェ・スタイル(比重の違う材料を混ぜずに層に重ねる作り方)への変更を要求し、カウンターから運ぶ間に層が混ざってしまう。
サイドカー
受験者3人目の得意カクテル。神嶋の評は「まあこんなところか」。3人とも技術で落とされたわけではない、という並びになっている。
水割り
この話の主役。佐々倉は中座して10分もらい、その間に厨房で氷を用意してから出す。カクテルではないものを出されて神嶋は最初激怒するが、飲んで折れる。作中では一般的な水割りの比率をウイスキー1:水2〜2.5とし、荒れた舌にはそれでも強すぎると判断したと語られる。ただし佐々倉が実際に使った比率は数値で書かれていない(「ギリギリまでアルコール度を落とした」とだけ)。作中の銘柄:ウイスキーは「ポピュラーなブレンデッド」とだけ明言(ラベルは吹き出しに隠れて読めない)。加水に使う水のボトルには HIGHLAND SPRING と読める

名前が出ただけのお酒

ファジーネーブル
「最近の若い連中は何を頼む」と聞かれた来島美和の答えとして名前が出るだけ。作中で作られても飲まれてもいない。
カシスオレンジ
同じ受け答えの中で挙がる名前。飲まれてはいない。
抹茶ウーロン
同じ受け答えの中で挙がる名前。飲まれてはいない。

「優しい止まり木」というタイトル

バーは止まり木、テンダーは優しい。作中で佐々倉がそう説明していて、それがそのままこの話の題になっている。バーテンダーという職名を分解しただけなのに、店の役割の説明にもなっているのが面白いところ。

この話で試されているのも技術ではなく、そちら側だった。3人の受験者はマティーニ・グラスホッパー・サイドカーをきちんと作れていて、それでも通らない。相手が今どういう状態で座っているかを見ていない、という一点で落ちている。

同じ一杯が「まずい」になる時間

ジンフィズは炭酸と氷が入ったロングドリンクで、注いだ瞬間から味が動いていく。炭酸が抜け、氷が溶け、温度が上がる。取材メモを書きながら20分置けば、それはもう出されたときとは別の飲み物になっている。

作中の物差しは「ショートカクテルは3口、ロングでも10分以内」。家で作るときにも効く数字で、写真を撮ったり動画を止めたりしているうちに、自分で作った一杯を自分でぬるくしていることは普通に起きる。作ったら飲む。それだけで味が一段変わる。

水割りを「カクテル」として作る

この話の締めはウイスキーの水割り。神嶋は酒を飲めない体調で試験の席に座っていて、そこへ出てきたのが度数を落とした一杯だった。美和はそれを「ウイスキーを水で割ったのではなく、水割りという名前のカクテルだ」と言う。

度数を落とすほど水っぽくなるのが普通で、そこを支えているのが氷。溶けにくい硬い氷なら、薄めた状態からさらに崩れていかない。作中で佐々倉が使ったのは、ホテル厨房の氷彫刻の職人に彫らせた氷で、バーテンダーの裏技として紹介されている。

味の描写も「アルコールの角がとれて舌に染み込むのに水っぽくない」「かすかな樽香と穀物の甘さ、しっかりしたコク」「度数は低いのに味ははっきりしている」と、薄さと弱さを切り離す方向で書かれている。ちなみに佐々倉が使った比率そのものは作中に数値で出てこない。

家で水割りを作るときの3つ

1つめ、氷を大きくする。製氷皿の小さい氷は表面積が大きく、薄めるつもりのない量まで溶ける。コンビニのロックアイスか、大きめの型で作った氷にするだけで最後の一口が変わる。

2つめ、水を選ぶ。ウイスキー1に対して水が2以上入るので、水の味は隠れずそのまま出る。硬度の高い水はミネラルの味が前に出て、軟水だとウイスキー側の香りが素直に伸びる。まず軟水で1杯作って基準にするといい。

3つめ、混ぜすぎない。マドラーで氷を縦に一度持ち上げる程度で足りる。かき回すほど氷が溶けて、狙った比率より薄いところへ勝手に着地する。

当ページは作品の紹介と、作中に登場するお酒についての解説です。作品本文・画像の転載はしていません。 引用した台詞は解説に必要な範囲にとどめています。
『バーテンダー』/城アラキ・長友健篩/集英社・スーパージャンプ