漫画とお酒 / バーテンダー

Glass 3 / 1巻

復活の酒

劇団を3年で諦め、明日故郷へ帰る役者が銀座のバー「Lapin」に流れ着く。事故で財布の金を落として払えないと分かった彼に、バーテンダーが咎めるどころか「私のおごりで」と出したのが、黒ビールと生トマトで組んだレッド・アイだった。

この話に出てくるお酒

ビールうちのバーには未収録
バーに不慣れな男が最初に頼んだ一杯。「こういう店ってビールでもいいの?」に「もちろんです」と返して、脚付きのピルスナーグラスで出される。飲んだ直後のモノローグが「でも味はただのビールだ」で、旨い酒としてではなく、まだ何も動いていない印として置かれている。作り方の記述は作中にない。
ザ・マッカラン 12年うちのバーには未収録
「もう一杯、せっかくだから何か変わったウイスキー。ただ…あまり高くないやつ」という頼み方に、バーテンダーが「シングルモルトをお飲みになりますか」と応えて出した一杯。小ぶりのグラスにそのまま。技法・加水・比率への言及はない。反応は一口で「…いい香りだな」と、香りだけを返している。作中の銘柄:MACALLAN 12(ボトルが大写しになり、ラベルに SINGLE HIGHLAND MALT SCOTCH WHISKY 12 と読める)
レッドアイ
この話の主役で、2回出てくる。1杯目は金を落として払えないと分かった男へ「代金は都合のよろしい時で構いませんから」「それより最後にもう一杯いかがですか」と差し出す一杯。2杯目は3日後、美和が「あれってビールに何を混ぜたの?」から自分で注文する。作中の説明は「氷もシェーカーも使わず、とても作り方はシンプル」「でもシンプルなものほどごまかしがきかない」「カクテルって簡単に見えるものほど実は難しい」。普段は黒ビールを使わないが、この一杯は「少しだけ苦味を強くしてみました」と黒ビールに替えてある。手順はバースプーンで軽くステアし、グラスへゆっくり注ぐところまでが描かれ、比率もステア回数も数値では出てこない。作中の銘柄:黒ビールは GUINNESS EXTRA STOUT のボトルが大写しになる。トマトは市販ジュースではなく生のトマトを絞る

名前が出ただけのお酒

ラガヴーリン 16年
酔って気が大きくなった美和が、カウンターを叩いて「ラガヴーリン! ストレートでダブル!」と自分で注文する。バーテンダーが「アイラ島のシングルモルトで個性が強いですが…」と断りを入れると「知ってるわよ そのくらい!」。ボトルが出てくるところまでで、グラスに注いで飲むコマはこの話に描かれない。
アイ・オープナー
リバイバー・カクテルの例として、イラスト付きで名前が挙がるだけ。この話では作られない。
コープス・リバイバー
同じくリバイバー・カクテルの例として名前が挙がるだけ。作中では番号(#1・#2)まで指定されない。うちに収録しているのはコープスリバイバー#2 だが、それがこの場面の一杯だとは作中に書かれていない。

「復活の酒」= リバイバー

扉には「復活の酒」と書かれ、リバイバーとルビが振ってある。作中の定義は「元気づける・回復させる」、気つけや迎え酒に飲む一杯。例としてアイ・オープナーとコープス・リバイバーの名前がイラスト付きで挙がるが、どちらもこの話では作られない。

そのうえでバーテンダーが言うのは、バーにある全ての酒が、あの扉を押して入ってきた客にとってはリバイバー・カクテルなんです、という話。最終ページは「そのためにバーはあるのかもしれません」で閉じる。つまり題の「復活の酒」は特定のレシピ名ではなく、実際に出されたのは金を落とした男に差し出す1杯のレッド・アイだった、という組み方になっている。

黒ビールに替えた理由だけが語られる

作中でバーテンダーが説明するのは「氷もシェーカーも使わず、とても作り方はシンプル」「でもシンプルなものほどごまかしがきかない」の2点と、材料をどう選んだかだけ。トマトは市販のジュースではなく生のトマトを絞る。ビールは「普段は黒ビールは使いませんが、少しだけ苦味を強くしてみました」と、この一杯にかぎって黒ビールへ替えている。

比率もステア回数も数値では出てこない。出てくるのは、バースプーンで軽くステアして、グラスへゆっくり注ぐ、という動作だけ。技術で殴る話ではなく、材料を2つに絞ったうえで相手に合わせて片方だけ動かす、という見せ方になっている。飲んだ男の言葉が「生まれて初めて飲む味だけど 何かホッとする味だな」で、目新しさではなく安心の側に落ちているのがこの一杯の狙いどころ。

家で組むときのレッド・アイ

レッド・アイはビールとトマトジュースを半々が基本。ビール120mlに対してトマトジュース120mlから始めて、好みで動かせばいい。氷は入れない。入れると溶けた水で薄まるうえ、泡が一気に落ちる。グラスとビールとトマトジュースは全部あらかじめ冷やしておく。ここを外すと、どの比率でもぬるく平坦になる。

作り方は、グラスへ先にトマトジュースを入れて、そこへビールをグラスの縁から伝わせてゆっくり注ぐ。混ぜるのは最後にバースプーンを一度立てて引き上げるくらいで足りる。かき混ぜるほど泡が消える。原作どおり黒ビールでやるなら、ラガーより焙煎した麦の苦味とコクが出るぶんトマトに負けないので、トマトを少し多めにしても輪郭が残る。逆に軽いラガーで組むと、トマトが勝ちやすいのでビール側を増やす。

トマトを生から搾るなら、完熟のものを半分に切って絞り、種と皮を漉す。市販の食塩無添加ジュースとの差はほぼ香りで、青い匂いが残るぶん飲み口が新しくなる。塩・胡椒・レモンを足す流儀もあるが、作中では何も足していない。

脇に置かれた2本のシングルモルト

前半に出てくるシングルモルトは方向が正反対に置かれている。マッカランはスペイサイドで、シェリー樽由来の甘い香りが分かりやすい側。ラガヴーリンはアイラで、ピート(泥炭)で乾かした麦芽から来る煙と潮の香りが強い側。バーテンダーが美和に「個性が強いですが」と断りを入れるのはそこを指している。

「あまり高くないやつ」と頼んだ男にマッカラン12年、勢いで名指しした美和にラガヴーリン16年。どちらも高い側の酒で、値段ではなく相手に合わせて選ばれている。家で1本目を買うなら、香りで驚きたいならマッカラン系、煙が好きだと分かっているならラガヴーリン系。飲み方は作中では両方ともストレートで、加水や氷への言及はない。なおダブルは30mlの倍で60ml、ウイスキーとしてはかなり多い注文になる。

当ページは作品の紹介と、作中に登場するお酒についての解説です。作品本文・画像の転載はしていません。 引用した台詞は解説に必要な範囲にとどめています。
『バーテンダー』/城アラキ・長友健篩/集英社・スーパージャンプ